巨大ロボットのハードル「2乗3乗の法則」
問題はここからだ。次の大きなハードルとなる「巨大化」には、「2乗3乗の法則」と呼ばれる、乗り越えがたい物理法則の壁が立ちはだかっている。これは巨大ロボットの現実性を語る際に、よく引き合いに出される法則で、耳にしたことがある方も多いかもしれない。
この法則は「ある物の長さを2倍、3倍にすると、面積や体積はそれ以上の割合で大きくなる」というものだ。例えば長さを2倍にすると面積は4倍(2の2乗)、体積は8倍(2の3乗)になる。長さが3倍なら、面積は9倍(3の2乗)、体積は27倍(3の3乗)に膨れ上がる。
Atlasは人間とほぼ同じサイズで、最新モデルの重量は約89kg。これを仮にガンダムと同じ全高18mにスケールアップすると、身長は約10倍だが、面積は2乗3乗の法則に従えば100倍(10の2乗)、体積は1000倍(10の3乗)になる。単純計算でも重量は89kg × 1000 = 89,000kg、つまり89tに達する。
ちなみにアニメ設定上の初代ガンダムは約40tとされており、Atlasから単純計算した場合よりは軽いが、それでもかなりの重量だ。
この法則は「ある物の長さを2倍、3倍にすると、面積や体積はそれ以上の割合で大きくなる」というものだ。例えば長さを2倍にすると面積は4倍(2の2乗)、体積は8倍(2の3乗)になる。長さが3倍なら、面積は9倍(3の2乗)、体積は27倍(3の3乗)に膨れ上がる。
Atlasは人間とほぼ同じサイズで、最新モデルの重量は約89kg。これを仮にガンダムと同じ全高18mにスケールアップすると、身長は約10倍だが、面積は2乗3乗の法則に従えば100倍(10の2乗)、体積は1000倍(10の3乗)になる。単純計算でも重量は89kg × 1000 = 89,000kg、つまり89tに達する。
ちなみにアニメ設定上の初代ガンダムは約40tとされており、Atlasから単純計算した場合よりは軽いが、それでもかなりの重量だ。
「動くガンダム」の涙ぐましい軽量化
この物理的な課題に対してどう応えているかを示した例が、機動戦士ガンダムをテーマにした複合施設「GUNDAM FACTORY YOKOHAMA」(2020年12月に開業し、2024年3月に営業終了)で公開されていた「動くガンダム」だ。アニメと同じく全高18mで設計されながら、重量は約25tに抑えられている。内部フレームに鋼鉄、外装に軽量なFRP(繊維強化プラスチック)を用いるなど、2乗3乗の法則に抗うための涙ぐましい軽量化努力の結晶といえるだろう。
このプロジェクトが示した最も重要な事実は、ガンダムが自立歩行しなかった点だ。その巨体は「G-キャリア」と呼ばれる巨大な支持装置で常に背後から支えられていた 。これは安全性を確保するための設計であると同時に、このスケールでは自立二足歩行が現在の技術では不可能であることを示している。筐体の再現まではぎりぎり可能であっても、それをAtlasのように自在に動かすのは、まだ夢のまた夢なのである。
このプロジェクトが示した最も重要な事実は、ガンダムが自立歩行しなかった点だ。その巨体は「G-キャリア」と呼ばれる巨大な支持装置で常に背後から支えられていた 。これは安全性を確保するための設計であると同時に、このスケールでは自立二足歩行が現在の技術では不可能であることを示している。筐体の再現まではぎりぎり可能であっても、それをAtlasのように自在に動かすのは、まだ夢のまた夢なのである。
動力源、廃熱、“足裏”に集中する圧力
仮に2乗3乗の法則を克服する超軽量・超高剛性の新素材が発明されたとしても、問題は山積みだ。
まず挙げられるのは動力源の問題。数十tもの巨体を動かすには、膨大なエネルギーが必要で、現在のバッテリー技術では全く不十分だ。数分で空になるバッテリーを何tも積むことになり、その分だけ重量が増してしまう。
アクチュエータ(エネルギーを動きに変える装置)も大きな壁だ。数tもの腕や脚を、ある程度の速度と精度で動かすには、駆動用のモーターや油圧シリンダー自体が巨大かつ大重量となり、ますますエネルギーを消費する。そしてそれらから発生する膨大な廃熱を処理するには、発電所並みの冷却システムが必要であり、これもまた重量増の要因となる。
仮に動力や駆動系の問題を全てクリアできたとしても、別の課題が立ちはだかる。
数十tの二足歩行ロボットが立ち上がると、その重量が2つの足裏に集中し、地面への圧力はすさまじいものになる。アスファルトや柔らかい土壌には沈み込み、ほとんどの都市部や自然環境では行動不能になるだろう。つまり、巨大二足歩行ロボットが移動できる場所は、著しく限られるのだ。
さらに、輸送手段や保管場所、そもそもの建造方法といった問題も無視できない。「巨大であること」に伴う問題は尽きない。それでもなお、こうした困難を乗り越えてまで巨大ロボットを使いたくなるような、圧倒的なニーズと大きなモチベーション、つまり巨大ロボットを使いたくなる「キラーアプリケーション」は生まれるだろうか?
まず挙げられるのは動力源の問題。数十tもの巨体を動かすには、膨大なエネルギーが必要で、現在のバッテリー技術では全く不十分だ。数分で空になるバッテリーを何tも積むことになり、その分だけ重量が増してしまう。
アクチュエータ(エネルギーを動きに変える装置)も大きな壁だ。数tもの腕や脚を、ある程度の速度と精度で動かすには、駆動用のモーターや油圧シリンダー自体が巨大かつ大重量となり、ますますエネルギーを消費する。そしてそれらから発生する膨大な廃熱を処理するには、発電所並みの冷却システムが必要であり、これもまた重量増の要因となる。
仮に動力や駆動系の問題を全てクリアできたとしても、別の課題が立ちはだかる。
数十tの二足歩行ロボットが立ち上がると、その重量が2つの足裏に集中し、地面への圧力はすさまじいものになる。アスファルトや柔らかい土壌には沈み込み、ほとんどの都市部や自然環境では行動不能になるだろう。つまり、巨大二足歩行ロボットが移動できる場所は、著しく限られるのだ。
さらに、輸送手段や保管場所、そもそもの建造方法といった問題も無視できない。「巨大であること」に伴う問題は尽きない。それでもなお、こうした困難を乗り越えてまで巨大ロボットを使いたくなるような、圧倒的なニーズと大きなモチベーション、つまり巨大ロボットを使いたくなる「キラーアプリケーション」は生まれるだろうか?

小林 啓倫
経営コンサルタント
1973年東京都生まれ、獨協大学外国語学部卒、筑波大学大学院修士課程修了。システムエンジニアとしてキャリアを積んだ後、米バブソン大学にてMBAを取得。その後外資系コンサルティングファーム、国内ベンチャー企業などで活動。著書に『FinTechが変える!金融×テクノロジーが生み出す新たなビジネス』(朝日新聞出版)、『IoTビジネスモデル革命』(朝日新聞出版)、訳書に『ソーシャル物理学』(アレックス・ペントランド著、草思社)、『シンギュラリティ大学が教える 飛躍する方法』(サリム・イスマイル著、日経BP)など多数。