AIで高齢者の買い物支援を—— GMOインターネットグループと香川県坂出市の挑戦

2024.6.27

実証実験でわかったこと

——実証実験の中で、高齢者の方々からはどのようなフィードバックがありましたか。

実は開発が始まった当初は「音声だけでの操作」にこだわりすぎて設計していました。でも実際に使っていただくと「商品を選択する時くらいは、さすがにボタン操作できるよ！」というお声を頂戴し、ユーザーインターフェースを調整しました。

また、より自然に使っていただくために讃岐弁にも対応しましたが、いざアプリに話しかけるときは、共通語を話される方が多かったことも意外な発見でした。

——職場では共通語を話すけれど、家族や地元の親しい友人とはその土地の言葉を使う感じでしょうか。

そうかもしれません。今はまだ、AIと人間との距離は「はじめまして」の段階なのかも。ただ「てんぷら」とユーザーが言えば、ちゃんと「じゃこ天」や「ごぼう天」などの揚げかまぼこを提案するようにしました。西日本の食文化では、「てんぷら」といえば揚げた練り物ですから。

また実証実験の段階ではマニアックな料理に対応できていなかったので、そのあたりも製品化に向けた改善ポイントだと感じました。ユーザーをガッカリさせてはいけないですし。これからも改善を続けていきます。

利用者からのフィードバックを受けて音声対話型コマースでも「ボタン」が実装された

——KBNがサービス化に向けて準備を進めています。実証実験でどんな手応えがありましたか。

高齢者の方からもご好評いただきましたが、実は若い世代にもニーズがあったことは大きな手応えでした。「しゃべったらすぐに商品が見つかる」ことの手軽さをご評価いただきました。

共働きのご家庭にとって、慌ただしい夕方にスーパーマーケットで買い物をするのは、レジに並んだり、駐車場に車を止めたり、いろいろと手のかかることだからです。

ネットスーパーを利用される方も増えていますが、スーパーマーケットの商品陳列は独特で、あの独特さをオンライン上で再現するのが今後の課題です。音声対話型コマースはネットショッピングの弱点を補う可能性を秘めています。

世代を超えて多くの人が音声対話型コマースを実際に使ってくださり、「役に立つ」と感じてくださったことは、今回の実証実験の大きな成果でしたね。

——実証実験について、NHKや日本経済新聞など多くのメディアに取り上げられましたね。

ありがたいことに、ニュースや新聞をきっかけに、問い合わせをたくさんいただきました。もちろん坂出市役所もGMOメイクショップも大喜びですよ！市役所内でも「ニュースを見たよ」とお声がけいただきましたし、実証実験の実施によって、1500万円ほどの広告効果があったと試算しています。

地方自治体のDXは“チャンスの宝庫”

——これから先、音声対話型コマースについてはどのようなシナジーが期待されますか。

買い物難民という社会課題を解決することだけにとどまらない可能性があると思います。今回、介護施設からも問い合わせがありました。

介護施設では、リハビリの領域での会話トレーニングに生成AIを使えないかと検討しているそうです。ですが「さあ話しましょう」と言われてすぐにペラペラと話せる人は、そうそういません。何を話していいかわからないのです。ましてや初対面のAIやロボット相手ならなおさら「なんとなく天気の話をしておしまい」となりかねない。

でも「買い物」を会話の糸口にすれば、高齢者の方もいろいろと話せるのです。買い物は生きることに結びついた行為ですからね。ショッピングとAIとインターネットの組み合わせには可能性がたくさんあります。

——畔上さんは坂出市のDX推進も行っていますね。

はい。坂出市役所の「公民連携・DX推進課」という部署で庁内DXや住民サービスの改善に取り組んでいます。ご縁をいただいたからには、坂出市に恩返しをしたいですし、爪痕を残したいと思っています。

地方自治体のDXは、GMOインターネットグループ的にいえば“チャンス”の宝庫です。例えば「忙しくてできない」といった課題があれば、それは私たちにとってチャンスなのです。「じゃあこうしたらいかがでしょう？」と前向きな提案をできますから。そのうち坂出市のDXについても良い発表を出せたらいいですね。

坂出市民による総選挙によって選ばれた坂出市公認キャラクター「さかいでまろ」と、マラソン中の畔上氏

坂出市役所の仲間は、本当にいい人ばかりです。実証実験のときも、今取り組んでいるDXでも、こちらが企画してプレゼンした内容を興味津々で耳を傾けて、ウンウンうなづいて、知ろうとしてくださる。そういった風土からはGMOイズムや、AIしあおうぜ！プロジェクトに通じるものを感じますね。

——AIしあおうぜ！プロジェクトで夢をかなえた畔上さんの、次の夢を教えてください。

本当の夢を言いますね。

AIが発達して、ロボットが登場して、人間の仕事が変わる……いつかそんな時代が来るだろうなと子どもの頃に想像していました。その世界が現実になりつつあります。

AIの登場によって仕事の意味が変わるなら、貨幣のあり方も変わるかもしれません。そしてお金の意味が変わったら、ひょっとしたら戦争だってなくなるかもしれない。だから、最終的に平和に行き着くことが私の夢です。音声対話型コマースを通して高齢者の自動車事故がなくなることを願ったのと同じように、世の中が平和になってほしい。

AIで世の中が良くなる、そんな変革の始まりに、AIを使ったプロジェクトに携わることができて、私はとても幸せです。