画面の中で文章や画像を生成するAIから、ロボットや自動車など「現実の身体」を持って物理世界で動くAIへ――。いま、テクノロジーの世界は「フィジカルAI」という大きな変革の時代を迎えています。
2026年9月15日、セルリアンタワー東急ホテルにて「第4回 GMO大会議・秋・フィジカルAI 2026」が開催されました。国内外の産官学の各分野からトップランナーが集結し、熱い議論が交わされた当日の模様を、注目の講演やパネルディスカッションの発言を中心にレポートします。
2026年9月15日、セルリアンタワー東急ホテルにて「第4回 GMO大会議・秋・フィジカルAI 2026」が開催されました。国内外の産官学の各分野からトップランナーが集結し、熱い議論が交わされた当日の模様を、注目の講演やパネルディスカッションの発言を中心にレポートします。
「1年でここまで進化」熊谷氏が示したヒューマノイドの急成長と日本の遅れ
オープニングでは、GMOインターネットグループ代表の熊谷正寿氏が登壇。二足歩行ヒューマノイドロボット「ひとみん」による見事なダンスパフォーマンスとともにメッセージを発信しました。
オープニングでダンスパフォーマンスを披露するヒューマノイドロボット「ひとみん」
熊谷氏は、わずか1年前はぎこちない動きだったロボットが、自律的に判断して見事なダンスや格闘技までこなすようになった映像を見せながら、「ダンスそのものよりも、この1年間の進化のスピードに気づいてほしい」と語りかけます。
「ChatGPTが登場してからの成長曲線は、角度どころか『垂直的』に上がっています。今年はAIが自分で自分のプログラムを書き換える『自己改造』の時代に入りました。人間は1日8時間しか働けませんが、AIは電気さえあれば24時間動き、並列でいくらでもコピーできます」(熊谷氏)
かつて1980〜90年代にかけて、産業用ロボットで世界シェアの9割を誇っていた日本。しかし、従来の日本型ロボットが勢いを失っている間に、世界中で「AI×ヒューマノイド」の爆発的な進化が起こり、日本は周回遅れになっていると熊谷氏は強い危機感を示します。
さらに、2040年には日本で1000万人規模の労働力不足が懸念されていることを挙げ、「これからの国のGDPは『人間の働く力+AI・ヒューマノイドの働く力』で決まります。海外に依存するのではなく、日本の技術と部品を結集した『国産ヒューマノイド』を立ち上げなければなりません」と熱弁を振るいました。
「ChatGPTが登場してからの成長曲線は、角度どころか『垂直的』に上がっています。今年はAIが自分で自分のプログラムを書き換える『自己改造』の時代に入りました。人間は1日8時間しか働けませんが、AIは電気さえあれば24時間動き、並列でいくらでもコピーできます」(熊谷氏)
かつて1980〜90年代にかけて、産業用ロボットで世界シェアの9割を誇っていた日本。しかし、従来の日本型ロボットが勢いを失っている間に、世界中で「AI×ヒューマノイド」の爆発的な進化が起こり、日本は周回遅れになっていると熊谷氏は強い危機感を示します。
さらに、2040年には日本で1000万人規模の労働力不足が懸念されていることを挙げ、「これからの国のGDPは『人間の働く力+AI・ヒューマノイドの働く力』で決まります。海外に依存するのではなく、日本の技術と部品を結集した『国産ヒューマノイド』を立ち上げなければなりません」と熱弁を振るいました。
GMOインターネットグループ 代表取締役 グループ代表 会長 兼 社長執行役員・CEO 兼 グループAI変革最高責任者・CAIO 熊谷 正寿氏
「2040年に1000万台のAIロボットを」政府が描くフィジカルAI戦略
今回のイベントでは、政府の閣僚3名から、日本の未来を左右するフィジカルAIへの国家戦略が示されました。
内閣総理大臣の高市早苗氏はビデオメッセージで、日本の「成長戦略17分野」の重要テーマとして位置づけたAI・半導体について、官民投資のロードマップを示しました。
「フィジカルAIについては、2040年度までに半導体を含めて80兆円の官民投資を想定しています。海外に開発基盤を依存することのないよう国産モデルで進め、2040年までに1000万台規模のAIロボットを国内に導入し、世界シェア3割超となる20兆円の市場獲得を目指します」(高市氏)
内閣総理大臣の高市早苗氏はビデオメッセージで、日本の「成長戦略17分野」の重要テーマとして位置づけたAI・半導体について、官民投資のロードマップを示しました。
「フィジカルAIについては、2040年度までに半導体を含めて80兆円の官民投資を想定しています。海外に開発基盤を依存することのないよう国産モデルで進め、2040年までに1000万台規模のAIロボットを国内に導入し、世界シェア3割超となる20兆円の市場獲得を目指します」(高市氏)
内閣総理大臣 高市早苗氏
続くビデオメッセージで財務大臣・金融担当大臣の片山さつき氏は、日本が誇る製造や物流などの現場で蓄積された「質の高いデータ」こそが最大の強みになると指摘。2040年度までに累計370兆円を超える官民投資を呼び込む枠組みに触れるとともに、セキュリティ面でのリスクについても警告を発しました。
「フロンティアAIの登場によって、脆弱性の発見から攻撃に至るまでの時間が大幅に短縮される可能性が指摘されています。ロボットや物流などの現実世界を守るため、防衛側もAIを活用した対策、そしてAIの開発・検証段階における安全装置についての国際的な議論を深めることも重要です」(片山氏)
「フロンティアAIの登場によって、脆弱性の発見から攻撃に至るまでの時間が大幅に短縮される可能性が指摘されています。ロボットや物流などの現実世界を守るため、防衛側もAIを活用した対策、そしてAIの開発・検証段階における安全装置についての国際的な議論を深めることも重要です」(片山氏)
財務大臣・金融担当大臣 片山さつき氏
また、会場で講演を行ったデジタル大臣(当時)の松本尚氏は、データの主権(ソブリンティ)を守ることの重要性を強調したうえで、具体策として「自動運転」と「AI×医療」の2つの大型事業を提示しました。特に元医師の視点から、医療ロボットにおける日本の勝ち筋を熱く語りました。
「日本の外科医の技術は非常に優れています。海外のAIにそれを覚え込ませて、海外のロボットを使い、日本の患者さんに適用した際、果たして信用してくれるでしょうか。川崎重工の手術支援ロボット『hinotori』のような国産ロボットに日本の名医のデータを学習させ、国産の手術ロボットや内視鏡ロボットを使うような、ソブリンティを考えながら構成しなければなりません」(松本氏)
「日本の外科医の技術は非常に優れています。海外のAIにそれを覚え込ませて、海外のロボットを使い、日本の患者さんに適用した際、果たして信用してくれるでしょうか。川崎重工の手術支援ロボット『hinotori』のような国産ロボットに日本の名医のデータを学習させ、国産の手術ロボットや内視鏡ロボットを使うような、ソブリンティを考えながら構成しなければなりません」(松本氏)
デジタル大臣(当時) 松本尚氏
4つのパネルディスカッションで見えた社会実装の現場
イベントでは4つのパネルディスカッションで、フィジカルAI実装の現場の実態が、登壇者からリアルに語られました。
「ROAI」で考えるAI投資、トークンの使いすぎより怖い「シャドーAI」
AIを業務に導入する企業が増える一方、「結局コストばかりかかって成果が見えない」「現場がどれくらい使っているかわからない」という課題が増えています。セッション「『うちはAIにいくら使っている?』から始めるトークンマネジメント」では、AIの利用量の単位である「トークン」の管理と投資対効果について議論されました。
モデレーターのGMO天秤AI 代表取締役社長・山城博規氏が「先月、個人で約40万円分のAI(API利用料)を使いました」と明かすと、登壇者からも驚きの利用規模が語られました。
OpenAI Forward Deployed Engineerの齊藤初雲氏は「エンジニアとして開発や自分専用の秘書エージェントを作って動かしており、個人で1カ月に約100億トークンほど使っています」と話し、デジライズ 代表取締役CEOの茶圓将裕氏も「月に1000万円分くらいのトークンを使って、1人で20セッションくらい同時にAIを走らせています」と明かしました。
そのうえで、企業のAI活用における「壁」について議論が及びました。
「生成AIを業務で使い始めている企業は約3割といわれますが、実際に経営や業務に大きな成果を出せている企業は、そこからさらにごく一部だと感じています」(齊藤氏)
「経営陣が『お金がかかるから』と有料版を配らず、社員が勝手に無償版を使う『シャドーAI』が一番危険です。また、夜間に指示を出しておけば朝まで自動で働き続けてくれるデスクトップ型のAIエージェントなどが出始めていますが、これは従量課金なので使いすぎを心配する声もあります。しかし、重要なのは『ROAI』、リターン・オン・AIの視点です。1人100万円分のAIを使っても、1億円の売上を作ってくれれば大成功なのですから」(茶圓氏)
齊藤氏は資料作成AIを例に「1年前は使いものにならなかった精度が、今では10分で高品質な提案書を作れるレベルに進化し、営業の訪問件数を劇的に増やしている」と語り、ビジネス成果につながる投資の重要性を指摘しました。
さらに、今後の見通しについては登壇者の意見が一致しました。
「この1年を見ても、同じアウトプットを出すためのトークンコストは劇的に下がっています。今『高い』と感じているコストも、来年には100分の1になっているかもしれません」(齊藤氏)
「将来コストが大幅に安くなることは確定した未来です。だからこそ、コストが下がるのを待つのではなく、今からAIを前提とした組織や、AIネイティブな業務フローへシフトしておくことが極めて重要な戦略になります」(茶圓氏)
モデレーターのGMO天秤AI 代表取締役社長・山城博規氏が「先月、個人で約40万円分のAI(API利用料)を使いました」と明かすと、登壇者からも驚きの利用規模が語られました。
OpenAI Forward Deployed Engineerの齊藤初雲氏は「エンジニアとして開発や自分専用の秘書エージェントを作って動かしており、個人で1カ月に約100億トークンほど使っています」と話し、デジライズ 代表取締役CEOの茶圓将裕氏も「月に1000万円分くらいのトークンを使って、1人で20セッションくらい同時にAIを走らせています」と明かしました。
そのうえで、企業のAI活用における「壁」について議論が及びました。
「生成AIを業務で使い始めている企業は約3割といわれますが、実際に経営や業務に大きな成果を出せている企業は、そこからさらにごく一部だと感じています」(齊藤氏)
「経営陣が『お金がかかるから』と有料版を配らず、社員が勝手に無償版を使う『シャドーAI』が一番危険です。また、夜間に指示を出しておけば朝まで自動で働き続けてくれるデスクトップ型のAIエージェントなどが出始めていますが、これは従量課金なので使いすぎを心配する声もあります。しかし、重要なのは『ROAI』、リターン・オン・AIの視点です。1人100万円分のAIを使っても、1億円の売上を作ってくれれば大成功なのですから」(茶圓氏)
齊藤氏は資料作成AIを例に「1年前は使いものにならなかった精度が、今では10分で高品質な提案書を作れるレベルに進化し、営業の訪問件数を劇的に増やしている」と語り、ビジネス成果につながる投資の重要性を指摘しました。
さらに、今後の見通しについては登壇者の意見が一致しました。
「この1年を見ても、同じアウトプットを出すためのトークンコストは劇的に下がっています。今『高い』と感じているコストも、来年には100分の1になっているかもしれません」(齊藤氏)
「将来コストが大幅に安くなることは確定した未来です。だからこそ、コストが下がるのを待つのではなく、今からAIを前提とした組織や、AIネイティブな業務フローへシフトしておくことが極めて重要な戦略になります」(茶圓氏)
OpenAI Forward Deployed Engineer 齊藤初雲氏
デジライズ 代表取締役CEO 茶圓将裕氏
警備ロボットに「ナンバープレートは必要か」四足歩行ロボ実証実験の舞台裏
人手不足が最も深刻な警備業界において、犬のような「四足歩行ロボット」を活用した実証実験が、陸上自衛隊の駐屯地や民間の施設で行われました。その現場で何が起きたのか。本音の議論がセッション「四足歩行型ロボットによる警備実証実験 ― 現場で見えた社会実装への道筋」で展開されました。
千葉工業大学 未来ロボット技術研究センター所長の古田貴之氏は、今回実験に使用したロボットの驚くべき仕組みを解説しました。
「実はこの四足歩行ロボット、階段を上るときにカメラなどの視覚センサーを一切使っていません。完全に『足裏の感覚』だけで段差を認識して上っています。周りの景色に惑わされず、不整地でもガシガシ進めるからです。中国製のロボットですが、使っているのは筋肉であるモーターだけで、頭脳やセキュリティはすべて独自の国産システムに入れ替えています」(古田氏)
千葉工業大学 未来ロボット技術研究センター所長の古田貴之氏は、今回実験に使用したロボットの驚くべき仕組みを解説しました。
「実はこの四足歩行ロボット、階段を上るときにカメラなどの視覚センサーを一切使っていません。完全に『足裏の感覚』だけで段差を認識して上っています。周りの景色に惑わされず、不整地でもガシガシ進めるからです。中国製のロボットですが、使っているのは筋肉であるモーターだけで、頭脳やセキュリティはすべて独自の国産システムに入れ替えています」(古田氏)
ALSOK 執行役員CTOの佐藤将史氏は、同社が1982年からロボット警備を研究してきた歴史を振り返りつつ、屋外での実証実験で直面した法制度の壁について語りました。
「昔、カッコいいアニメのような警備ロボットを作ったら、商業施設でお子さんが喜んで飛びついてしまい危険でした。そこからツルッとした形に変えたり、人に絶対にぶつからない警備員の歩き方をロボットに移植したりと、現場でのノウハウを蓄積してきました。しかし、今回の屋外実験にあたって警察に相談したところ、前例がないため『ナンバープレートはつけるのか?』『ウインカーや緊急停止ボタンは?』と大議論になりました。最終的に安全柵を設けるなどの工夫で許可を得ましたが、制度面の課題を痛感しました」(佐藤氏)
モデレーターを務めたGMOインターネットグループ 取締役グループ副社長の西山裕之氏は、現場でカメラの配置に悩んだ際、「いっそiPhoneをそのままロボットに取り付けたらどうか」というアイデアが出たエピソードを紹介。「手ブレ補正も強力で通信もでき、一番速く実装できた」と現場だからこそできた柔軟な対応を振り返りました。
「昔、カッコいいアニメのような警備ロボットを作ったら、商業施設でお子さんが喜んで飛びついてしまい危険でした。そこからツルッとした形に変えたり、人に絶対にぶつからない警備員の歩き方をロボットに移植したりと、現場でのノウハウを蓄積してきました。しかし、今回の屋外実験にあたって警察に相談したところ、前例がないため『ナンバープレートはつけるのか?』『ウインカーや緊急停止ボタンは?』と大議論になりました。最終的に安全柵を設けるなどの工夫で許可を得ましたが、制度面の課題を痛感しました」(佐藤氏)
モデレーターを務めたGMOインターネットグループ 取締役グループ副社長の西山裕之氏は、現場でカメラの配置に悩んだ際、「いっそiPhoneをそのままロボットに取り付けたらどうか」というアイデアが出たエピソードを紹介。「手ブレ補正も強力で通信もでき、一番速く実装できた」と現場だからこそできた柔軟な対応を振り返りました。
写真左から、GMOインターネットグループ 取締役グループ副社長 西山裕之氏、千葉工業大学 未来ロボット技術研究センター所長 古田貴之氏、ALSOK 執行役員CTO 佐藤将史氏
最後に古田氏は、ロボットの利活用を単なる「1日だけのデモンストレーション」で終わらせないための熱い想いを語りました。
「世の中のロボット実証実験の多くが、たった1日展示して終わりです。それでは永遠に社会実装されません。今回のように、技術者集団としての千葉工大、現場サービスのプロであるALSOK、セキュリティのプロであるGMOインターネットグループが本気でぶつかり合い、泥臭く現場で改善を繰り返す『DevOps(デブオプス:開発と運用の融合)』を行って初めて、世界に誇れる官民デュアルユースの成功例ができるのです」(古田氏)
「世の中のロボット実証実験の多くが、たった1日展示して終わりです。それでは永遠に社会実装されません。今回のように、技術者集団としての千葉工大、現場サービスのプロであるALSOK、セキュリティのプロであるGMOインターネットグループが本気でぶつかり合い、泥臭く現場で改善を繰り返す『DevOps(デブオプス:開発と運用の融合)』を行って初めて、世界に誇れる官民デュアルユースの成功例ができるのです」(古田氏)
千葉工業大学 未来ロボット技術研究センター所長 古田貴之氏
ALSOK 執行役員CTO 佐藤将史氏

宮田 健
ライター
2012年よりITセキュリティのフリーライターとして活動するかたわら、個人活動として“広義のディズニー”を取り上げるWebサイト「dpost.jp」を1996年ごろから運営中。テーマパークやキャラクターだけではない、オールディズニーが大好物。2020年、2022年には講談社「ディズニーファン」に短期連載も。
Webサイト:https://dpost.jp/
X:@dpostjp













