「ロボット大国・日本」が実は周回遅れ? “フィジカルAI”がテーマのGMO大会議で語られた日本の危機

宮田 健

AIGMOインターネットグループイベントテクノロジー

データが足りない……フィジカルAIの学習データをめぐる新たな連携

画面の中のAIはインターネット上の大量の文章を学習できますが、物理世界で手足を動かす「フィジカルAI」に必要な動作データは、世界中で圧倒的に不足しています。セッション「フィジカルAIを動かす学習データの作り方 ― 現場で集めるか、合成でつくるか」では、このデータをどう確保するかが議論されました。

コンビニの品出しや倉庫で実際にロボットを24時間遠隔操作・自動稼働させているテレイグジスタンス 共同創業者兼CTOの佐野元紀氏は、データの重要性について次のように語りました。

「ロボットの腕や関節を実際にどう動かしたかというダイレクトな“実機データ”が、AIの学習において最も価値が高く強い信号になります。ただ、これを集めるには大変なコストがかかります」(佐野氏)

これに対し、AIロボット協会 CTOの松嶋達也氏が「実機データだけでなく、人間が簡易デバイスを持って集めたデータや、人間の視点データ、そしてパソコン上のシミュレーションで作る“合成データ”を最適な比率で組み合わせる研究が進んでいる」と補足。

さらに、Preferred Networks 共同創業者 代表取締役社長の岡野原大輔氏は、「画像や音声の合成データ作りは進んでいますが、触覚や未知の物理現象を再現するのはまだ難しいところです。コンピューター上のシミュレーションと、リアルな現場データの両方をうまく融合させることが不可欠です」と述べました。

経済産業省 大臣官房審議官の奥家敏和氏は、日本の産業界におけるデータ共有の空気が一変していることを明かします。

「昔は各企業がデータを抱え込んでいましたが、ここ1〜2年で空気が相当変わっています。例えば潜水艦の特別な溶接データのような自社のコア技術は絶対に非公開ですが、基本動作の溶接データなら、むしろ業界みんなで出し合った方がよいという連携の考え方が広がっています」(奥家氏)

左からGMOインターネットグループ サイバー防衛事業推進本部「6」本部長 廣惠次郎氏、経済産業省 大臣官房審議官 奥家敏和氏、Preferred Networks 共同創業者/代表取締役社長 岡野原大輔氏、AIロボット協会 CTO 松嶋達也氏、テレイグジスタンス 共同創業者兼CTO 佐野元紀氏

脆弱性の発見から攻撃まで24時間未満、「AI対AI」時代のセキュリティ

ロボットや自動運転車が街を走る時代において、もしそのAIがハッキングされたら物理的な大事故につながります。セッション「AIで攻撃が加速する今、どう『先に』守るか」では、急速進化するAI時代のサイバーセキュリティについて議論が交わされました。

Anthropic Japan Applied AI 本部長の菅野信氏は、同社の未公開AIモデル「Mythos(ミュトス)」をはじめとする最先端AIモデルが持つすさまじい能力を紹介しました。

「最新のAIモデルは、27年間も誰にも見つけられなかったOSの古いバグや、16年間潜んでいた動画処理ソフトの脆弱性を、人間に代わって自律的に発見し始めています。AIの解析能力は今や人間の専門家を超えつつあります」(菅野氏)

Cloudflare Japan Field CTOの乙部幸一朗氏は、この進化がもたらす脅威を解説しました。

「システムの弱点が発見されてから攻撃に使われるまでの時間が、数年前の『数カ月』から、今や『24時間未満』にまで縮まっています。攻撃者側もAIを使って、弱点の発見から攻撃の実行までを全自動化し始めているからです。これに対抗するには、製品が完成してから対策するのではなく、プログラムを書く最初の段階から安全性を組み込む『シフトレフト』と、攻撃を防御する仕組みの自動化が不可欠です」(乙部氏)

GMOインターネットグループのグループCISOである阿部慎司氏は、攻撃者は100回のうち1回成功すれば勝ちだが、防御側は100回すべてを防がなければならないという防御側の非対称性を指摘し、次のように締めくくりました。

「人間だけのスピードでは、AIを使った攻撃に対応しきれません。防御側もAIという『優秀な相棒』を組み込み、分析や初期対応を自動化することで、『AI対AI』のスピードと量に対抗していく時代に入っています」(阿部氏)

左からGMO Flatt Security 取締役Co-CTO米内貴志氏、Cloudflare Japan Field CTO 乙部幸一朗氏、Anthropic Japan Applied AI 本部長 菅野信氏、GMOインターネットグループ グループCISO 阿部慎司氏

AnthropicやNVIDIAが示した、ロボットを動かす最新技術と新サービス

パネルディスカッションの合間には、世界のトップ企業による講演や表彰式も行われました。

Anthropic Japan 代表執行役社長の東條英俊氏は、人間中心の安全なAI開発の考え方を語るとともに、AIエージェントが研究や製造の現場で機器を操作するための共通規格「MHS(Model Hardware Standard)」を紹介しました。

Anthropic Japan 代表執行役社長 東條英俊氏

また、NVIDIA ロボティクス事業部事業部長の平野一将氏は、物理世界を理解する世界モデル「Cosmos」を取り上げ、汎用的な知能と現場に特化した専門性を組み合わせることが、日本のモノづくりの勝ち筋になると提言しました。

GMO AI&ロボティクス商事の内田朋宏氏は、ロボット導入の3大課題である「セキュリティ」「データ学習」「故障保守」に対応する各サービスとして、ロボットからのデータ流出を防止し、安全な利用を継続的に⾒守る「GMO SAFE」、現場データを還元する「GMO LOOP」、エンジニアが修理に駆けつける「GMOヒューマノイド救急車」を紹介しました。

GMO AI&ロボティクス商事 代表取締役社長 内田朋宏氏

また、同日行われた「GMOフィジカルAI Awards 2026」の発表では、国内のフィジカルAI発展に貢献した企業を表彰。AI部門優秀賞にはPreferred Networksが、ロボティクス部門優秀賞にはテレイグジスタンスがそれぞれ選ばれました。

東大・藤井総長が語る「責任あるイノベーション」と人材育成

イベントの最後を締めくくったのは、東京大学総長の藤井輝夫氏による特別講演です。

藤井氏は、約40年前に自律型海中ロボットの研究からキャリアをスタートさせた経験を振り返り、「当時からロボット自身が泳ぎながら学習する仕組みを研究していた」と自己紹介。AIロボット協会(AIRoA)を通じて、日本のロボティクスデータのオープン化を推進している現状を語りました。

また、AIが社会に深く浸透する時代だからこそ、科学者が責任を持つ「責任あるイノベーション」と倫理設計が極めて重要であると指摘。東京大学として2027年秋に開講を予定している新たな教育課程「UTokyo College of Design」構想に触れ、技術だけでなく、新しい社会の仕組みや倫理を含めてデザインできる人材を育成し、フィジカルAIの社会実装に貢献していく姿勢を示しました。

東京大学総長 藤井輝夫氏

今回の「第4回 GMO大会議・秋・フィジカルAI 2026」を通じて印象づけられたのは、「もはや議論の段階は終わり、リアルな現場での社会実装とデータの蓄積が始まっている」という事実です。

世界との差に対する危機感が共有される一方で、日本には「現場の高品質なデータ」「精密なモノづくり技術」「安全なセキュリティ基盤」という強みがあることも、登壇者たちから繰り返し語られました。これらを産官学でいかに素早く結集できるか。日本の産業再興に向けた確かな熱量とロードマップを感じさせる、密度の濃い会議となりました。
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宮田 健

ライター
2012年よりITセキュリティのフリーライターとして活動するかたわら、個人活動として“広義のディズニー”を取り上げるWebサイト「dpost.jp」を1996年ごろから運営中。テーマパークやキャラクターだけではない、オールディズニーが大好物。2020年、2022年には講談社「ディズニーファン」に短期連載も。
Webサイト:https://dpost.jp/
X:@dpostjp

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