生成AIへの反発
2023年は、「生成AI(Generative AI)」に世界が熱狂した1年として記憶されることだろう。2022年11月末、いまや生成AIの代名詞ともなった対話型AI「ChatGPT」が発表されると、その高性能ぶりに衝撃が走った。そして2023年3月、ChatGPTを実現しているAIモデルが「GPT-3.5」から「GPT-4」へとバージョンアップされると、質問に対する回答の精度がさらに向上。個人だけでなく、多くの企業が社内に導入したり、それをベースとして新たなアプリケーションを開発するようになっている。
人間に匹敵する、あるいはそれを上回るかのような能力を持つAIを、誰もが利用できる――そんなSFのような世界が到来したことに、消費者も企業も興奮している。その一方で、だからこそAIに対する警戒感、つまり「自分の仕事がAIに取って代わられるのではないか」や「悪用され何らかの不利益を被るのではないか」といった懸念も高まっており、手綱を締めようとする動きが見られるようになっている。
たとえば米国では、WGA(全米脚本家組合)が長期間のストライキを行ったのだが、その中で争点のひとつとなったのが、エンターテインメント業界におけるAI導入の動きだった。
WGAは1万人を超える脚本家が参加する組合で、AMPTP(全米映画テレビ制作者協会)との間で報酬を巡る対立が発生し、5月2日にストライキに突入した。彼らは報酬の引き上げに加えて、ChatGPTのような生成AIが限定的な用途にのみ使用されることを求めた。報道によれば、脚本家側は当初、生成AIがアイデア出しやリサーチといった簡単な作業でのみ役立つツールだと考えていたようだ。しかし生成AIの性能が急速に発展したことで、脚本家そのものを置き換える存在になることを危惧。そこで映画やテレビのプロデューサーといった製作側に対し、その利用制限を求めたのである。
ストライキは、開始から5カ月近くも経過した9月27日にようやく終結。その際、両者の間で交わされた取り決めにより、「生成AIが脚本そのものを書いたり、改変したりすること」が禁止され、さらに「AIによって生成されたコンテンツによって、脚本家の権利が損なわれないようにすること」がルールとして定められた。また「脚本家に生成AIを使うよう強制しないこと」「AIのトレーニングに脚本家の書いた作品を使用しないこと」も合意された。映像作品の脚本執筆というごく狭い世界での話だが、これは生成AIの利用を明確に縛るものになるだろう。
WGAのような活動は、生成AIの使用者と直接的に交渉するという点で即効性のあるものだ。しかし当然ながらその範囲は限定的で、約束が継続的に維持されるという保証はない。生成AIの利用を包括的に制限するためには、やはり法律の整備が必要になると考えられる。
人間に匹敵する、あるいはそれを上回るかのような能力を持つAIを、誰もが利用できる――そんなSFのような世界が到来したことに、消費者も企業も興奮している。その一方で、だからこそAIに対する警戒感、つまり「自分の仕事がAIに取って代わられるのではないか」や「悪用され何らかの不利益を被るのではないか」といった懸念も高まっており、手綱を締めようとする動きが見られるようになっている。
たとえば米国では、WGA(全米脚本家組合)が長期間のストライキを行ったのだが、その中で争点のひとつとなったのが、エンターテインメント業界におけるAI導入の動きだった。
WGAは1万人を超える脚本家が参加する組合で、AMPTP(全米映画テレビ制作者協会)との間で報酬を巡る対立が発生し、5月2日にストライキに突入した。彼らは報酬の引き上げに加えて、ChatGPTのような生成AIが限定的な用途にのみ使用されることを求めた。報道によれば、脚本家側は当初、生成AIがアイデア出しやリサーチといった簡単な作業でのみ役立つツールだと考えていたようだ。しかし生成AIの性能が急速に発展したことで、脚本家そのものを置き換える存在になることを危惧。そこで映画やテレビのプロデューサーといった製作側に対し、その利用制限を求めたのである。
ストライキは、開始から5カ月近くも経過した9月27日にようやく終結。その際、両者の間で交わされた取り決めにより、「生成AIが脚本そのものを書いたり、改変したりすること」が禁止され、さらに「AIによって生成されたコンテンツによって、脚本家の権利が損なわれないようにすること」がルールとして定められた。また「脚本家に生成AIを使うよう強制しないこと」「AIのトレーニングに脚本家の書いた作品を使用しないこと」も合意された。映像作品の脚本執筆というごく狭い世界での話だが、これは生成AIの利用を明確に縛るものになるだろう。
WGAのような活動は、生成AIの使用者と直接的に交渉するという点で即効性のあるものだ。しかし当然ながらその範囲は限定的で、約束が継続的に維持されるという保証はない。生成AIの利用を包括的に制限するためには、やはり法律の整備が必要になると考えられる。
小林 啓倫
経営コンサルタント
1973年東京都生まれ、獨協大学外国語学部卒、筑波大学大学院修士課程修了。システムエンジニアとしてキャリアを積んだ後、米バブソン大学にてMBAを取得。その後外資系コンサルティングファーム、国内ベンチャー企業などで活動。著書に『FinTechが変える!金融×テクノロジーが生み出す新たなビジネス』(朝日新聞出版)、『IoTビジネスモデル革命』(朝日新聞出版)、訳書に『ソーシャル物理学』(アレックス・ペントランド著、草思社)、『シンギュラリティ大学が教える 飛躍する方法』(サリム・イスマイル著、日経BP)など多数。