なぜ空間コンピューティングに注目が集まっているのか
「空間コンピューティング」という言葉が初めて定義されたのは、2003年、当時MITの大学院生だったサイモン・グリーンウォルドによってだとされている。彼は修士論文(タイトルはまさしく「Spatial Computing」だ)の中で、この概念を「人間とマシンとのインタラクションであり、そこではマシンが現実の物体や空間の参照情報を保持し、操作できる」と定義している。「コンピューティング」という言葉が使われていることからもわかるように、最初から人間とマシン(コンピュータ)のやり取りに関する概念だったわけだ。
その可能性に対して、いま大きな注目が集まっている。次の映像は、空間コンピューティングに関する技術の主要プレーヤーとして紹介されることの多い企業の1社、Magic Leapが公開しているものだ。
その可能性に対して、いま大きな注目が集まっている。次の映像は、空間コンピューティングに関する技術の主要プレーヤーとして紹介されることの多い企業の1社、Magic Leapが公開しているものだ。
Spatial Computing for Enterprise with Magic Leap 1
via www.youtube.com
この中には、先ほどのTaqtileをはじめ、さまざまな企業の空間コンピューティング・アプリケーションが紹介されている。機器のメンテナンスや技術者のトレーニングに使われるものだけでなく、デザインや設計を支援するもの、Eコマースを可能にするものなど、エンターテインメントから医療に至るまで多種多様な用途が登場しているのがわかるだろう。
なぜこれほど多くのアプリケーションが登場しつつあるのか。それにはもちろん、VRやARに関係するテクノロジーの進化という下地があるが、もうひとつ忘れてならないのは、デジタル情報の急増だ。
言うまでもなく、私たちのまわりでは、いまデジタル情報が途方もないスピードで増えつつある。さらにCOVID-19によって引き起こされたパンデミックは、デジタル空間におけるインタラクションをさらに価値のあるものとし、さまざまな活動が急速にデジタルに置き換えられつつある。
IDCが発表した調査結果によれば、2020年の総データ量は59ZB(ゼタバイト)に届く見込みとのことだ(ちなみに1ZBはDVDに換算すると2500億枚分のデータ量であると言われ、59ZBであれば実に約15兆枚分ということになる)。その一因としてIDCは、今回のパンデミックを挙げており、さらに2024年までの5年間における総データ量のCAGR(年平均成長率)は26%に達すると予測している。
こうしたデジタル情報は物理的な姿を持たないため、その操作にはキーボードやマウスといったデバイスが必要になる。タッチパネルの普及によって、そうした操作は大きく効率化されたとはいえ、まだまだ物理的な情報のように直感的に扱うということは難しい。そこで空間コンピューティングの出番、というわけだ。
たとえばこれまで、PCやタブレット上でしか読めなかった電子書籍が、紙の本と同じルック・アンド・フィールで操作できるとすればどうか。マウスを操作してメニューを開き、適切な箇所を選んでクリックしなくても、目の前に現れた(実際はヘッドセットのスクリーン上に表示されているCGなわけだが)本に「触れて」、ページをめくる動作をするだけで読むことができる。またTaqtileのアプリケーションのように、修理しようとしている機械に視線を合わせるだけで、関連マニュアルの該当ページが表示されるようにすることも可能だろう。
あるいは、まったく新しいインターフェースが生まれて、私たちと情報の付き合い方が劇的に変わるかもしれない。しかしここで、そうした空間コンピューティングの具体的な可能性を、いちいち説明する必要はないだろう。答えは既に、皆さんの好きなSF作品の中で描かれているはずだ。
なぜこれほど多くのアプリケーションが登場しつつあるのか。それにはもちろん、VRやARに関係するテクノロジーの進化という下地があるが、もうひとつ忘れてならないのは、デジタル情報の急増だ。
言うまでもなく、私たちのまわりでは、いまデジタル情報が途方もないスピードで増えつつある。さらにCOVID-19によって引き起こされたパンデミックは、デジタル空間におけるインタラクションをさらに価値のあるものとし、さまざまな活動が急速にデジタルに置き換えられつつある。
IDCが発表した調査結果によれば、2020年の総データ量は59ZB(ゼタバイト)に届く見込みとのことだ(ちなみに1ZBはDVDに換算すると2500億枚分のデータ量であると言われ、59ZBであれば実に約15兆枚分ということになる)。その一因としてIDCは、今回のパンデミックを挙げており、さらに2024年までの5年間における総データ量のCAGR(年平均成長率)は26%に達すると予測している。
こうしたデジタル情報は物理的な姿を持たないため、その操作にはキーボードやマウスといったデバイスが必要になる。タッチパネルの普及によって、そうした操作は大きく効率化されたとはいえ、まだまだ物理的な情報のように直感的に扱うということは難しい。そこで空間コンピューティングの出番、というわけだ。
たとえばこれまで、PCやタブレット上でしか読めなかった電子書籍が、紙の本と同じルック・アンド・フィールで操作できるとすればどうか。マウスを操作してメニューを開き、適切な箇所を選んでクリックしなくても、目の前に現れた(実際はヘッドセットのスクリーン上に表示されているCGなわけだが)本に「触れて」、ページをめくる動作をするだけで読むことができる。またTaqtileのアプリケーションのように、修理しようとしている機械に視線を合わせるだけで、関連マニュアルの該当ページが表示されるようにすることも可能だろう。
あるいは、まったく新しいインターフェースが生まれて、私たちと情報の付き合い方が劇的に変わるかもしれない。しかしここで、そうした空間コンピューティングの具体的な可能性を、いちいち説明する必要はないだろう。答えは既に、皆さんの好きなSF作品の中で描かれているはずだ。
小林 啓倫
経営コンサルタント
1973年東京都生まれ、獨協大学外国語学部卒、筑波大学大学院修士課程修了。システムエンジニアとしてキャリアを積んだ後、米バブソン大学にてMBAを取得。その後外資系コンサルティングファーム、国内ベンチャー企業などで活動。著書に『FinTechが変える!金融×テクノロジーが生み出す新たなビジネス』(朝日新聞出版)、『IoTビジネスモデル革命』(朝日新聞出版)、訳書に『ソーシャル物理学』(アレックス・ペントランド著、草思社)、『シンギュラリティ大学が教える 飛躍する方法』(サリム・イスマイル著、日経BP)など多数。