資材調達はどうする？巨大宇宙建設の現実的な課題
まず最初に挙げられるのは、工学的・コスト的な課題だ。提案されているオニール・シリンダーのサイズは、宇宙構造物としては前例のない規模となり、外殻だけでも6400万tもの資材を要する。
さらに、内部の大気圧に耐えるには巨大な補強材が必要になるという。特に宇宙環境では放射線が降り注ぐため、その対策としては1平方mあたり5t以上の遮蔽材を用意しなければならない。それらを全て地球から調達して運ぶのは非現実的であり、オニールは資材を月や小惑星から得る案を提示した。しかしこの方法にも、多くの技術的な壁が立ちはだかっている。
1970年代にNASAが試算したところ、コロニーを1基建設するのに必要な費用は1400億ドルに上った。現在の価値に換算すれば7000～8000億ドルで、さらに現代の見積りでは最大10兆ドルに達するという。この天文学的な額の投資を回収するには、従来の枠を越えた革新的な構想が不可欠だ。
仮にコロニーそのものの建設に成功しても、それを長期的に運用できるかは別の問題だ。オニール・シリンダーは、内部での自給自足が前提となる「閉ループ型」の環境を目指しており、大気質の管理、廃棄物のリサイクル、水の浄化といった機能が不可欠となる。
さらに、住民の食料を賄うには、高度な水耕栽培や空中栽培技術の実現が求められる。現在の国際宇宙ステーション（ISS）では、酸素の51%、水の90%以上が回収されているが、ガスや水、食料は依然として補給に大きく依存している。コロニーを実現するには、こうした点でのブレークスルーが達成されなければならない。
さらに、内部の大気圧に耐えるには巨大な補強材が必要になるという。特に宇宙環境では放射線が降り注ぐため、その対策としては1平方mあたり5t以上の遮蔽材を用意しなければならない。それらを全て地球から調達して運ぶのは非現実的であり、オニールは資材を月や小惑星から得る案を提示した。しかしこの方法にも、多くの技術的な壁が立ちはだかっている。
1970年代にNASAが試算したところ、コロニーを1基建設するのに必要な費用は1400億ドルに上った。現在の価値に換算すれば7000～8000億ドルで、さらに現代の見積りでは最大10兆ドルに達するという。この天文学的な額の投資を回収するには、従来の枠を越えた革新的な構想が不可欠だ。
仮にコロニーそのものの建設に成功しても、それを長期的に運用できるかは別の問題だ。オニール・シリンダーは、内部での自給自足が前提となる「閉ループ型」の環境を目指しており、大気質の管理、廃棄物のリサイクル、水の浄化といった機能が不可欠となる。
さらに、住民の食料を賄うには、高度な水耕栽培や空中栽培技術の実現が求められる。現在の国際宇宙ステーション（ISS）では、酸素の51%、水の90%以上が回収されているが、ガスや水、食料は依然として補給に大きく依存している。コロニーを実現するには、こうした点でのブレークスルーが達成されなければならない。
コロニー内の政治体制はどうなる？
コロニー内の社会や政治体制が適切に機能するかどうかも懸念材料の1つだ。
例えばシリンダー内の環境は脆弱であり、それを維持するには高い規律が求められる。この条件が、非民主的で強権的な政治体制を生む可能性も指摘されている。
「空気は無料ではない」という前提が、コロニーの統治機関に絶大な支配力を与える恐れもある。カリフォルニア大学アーバイン校の物理学教授で小説家でもあるグレゴリー・ベンフォードは、1979年の小説『REDEEMER』の中で、登場人物にこんな指摘をさせている（拙訳）。
「わからないのか？ コロニー環境というものは社会的な進歩なんかじゃない。生命維持システムが破綻して空気が漏れ出したり、毒物に汚染されたりしないよう、厳格な規律が不可欠なんだ。通信も移動も、ただ生き延びるためだけに統制されなければならない。その結果生まれるのは民主主義なんかじゃない——独裁者だ。 そして奴らは我々に牙をむいた……地球に対してな」
一年戦争を起こしたジオン公国も、ファーストガンダムの中では「“ザビ家”による独裁体制が敷かれた国家」として描写されている。もちろん、これはエンタメ作品として物語を盛り上げるために設けられた、いわば「分かりやすい悪役」を生み出す設定だろう。とはいえ、スペースコロニーが本質的に抱えるリスクを、結果的に表しているといえるかもしれない。
いずれにしても、オニール・シリンダー型のスペースコロニーを本当に実現するには、物理的な可能性の検討を超えて、全く新しい人間社会のあり方にまで踏み込む必要があるわけだ。
そのためには、短期間の宇宙ミッションでは得られない視点を含んだ、宇宙心理学や社会学、そして統治モデルに関する幅広い研究が不可欠だ。
ガンダムシリーズのようなSF作品を通じて未来社会を想像することも、こうした課題への理解を深める上で、大いに役立つはずだ。
例えばシリンダー内の環境は脆弱であり、それを維持するには高い規律が求められる。この条件が、非民主的で強権的な政治体制を生む可能性も指摘されている。
「空気は無料ではない」という前提が、コロニーの統治機関に絶大な支配力を与える恐れもある。カリフォルニア大学アーバイン校の物理学教授で小説家でもあるグレゴリー・ベンフォードは、1979年の小説『REDEEMER』の中で、登場人物にこんな指摘をさせている（拙訳）。
「わからないのか？ コロニー環境というものは社会的な進歩なんかじゃない。生命維持システムが破綻して空気が漏れ出したり、毒物に汚染されたりしないよう、厳格な規律が不可欠なんだ。通信も移動も、ただ生き延びるためだけに統制されなければならない。その結果生まれるのは民主主義なんかじゃない——独裁者だ。 そして奴らは我々に牙をむいた……地球に対してな」
一年戦争を起こしたジオン公国も、ファーストガンダムの中では「“ザビ家”による独裁体制が敷かれた国家」として描写されている。もちろん、これはエンタメ作品として物語を盛り上げるために設けられた、いわば「分かりやすい悪役」を生み出す設定だろう。とはいえ、スペースコロニーが本質的に抱えるリスクを、結果的に表しているといえるかもしれない。
いずれにしても、オニール・シリンダー型のスペースコロニーを本当に実現するには、物理的な可能性の検討を超えて、全く新しい人間社会のあり方にまで踏み込む必要があるわけだ。
そのためには、短期間の宇宙ミッションでは得られない視点を含んだ、宇宙心理学や社会学、そして統治モデルに関する幅広い研究が不可欠だ。
ガンダムシリーズのようなSF作品を通じて未来社会を想像することも、こうした課題への理解を深める上で、大いに役立つはずだ。
小林 啓倫
経営コンサルタント
1973年東京都生まれ、獨協大学外国語学部卒、筑波大学大学院修士課程修了。システムエンジニアとしてキャリアを積んだ後、米バブソン大学にてMBAを取得。その後外資系コンサルティングファーム、国内ベンチャー企業などで活動。著書に『FinTechが変える！金融×テクノロジーが生み出す新たなビジネス』（朝日新聞出版）、『IoTビジネスモデル革命』（朝日新聞出版）、訳書に『ソーシャル物理学』（アレックス・ペントランド著、草思社）、『シンギュラリティ大学が教える 飛躍する方法』（サリム・イスマイル著、日経BP）など多数。
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