僕らが視覚障がい者マラソンに伴走者として出場する理由── ハンディキャップを支える中で学んだ多様な人々との向き合い方

2023.3.16

伴走者への感謝を深く感じることもマラソンの醍醐味

練習を重ねて迎えた視覚障害者マラソン宮崎大会本番について、「練習と同じで苦労したところは特になかった。当日は天気も良かったし、大会関係者の方もものすごく親切にしてくださったので感謝しかない。後藤さんと気持ちよく宮崎の街を走った喜びしかありませんでした」と安田さん。一方、後藤さんはこう振り返る。

「バイパス道路など、普段は走ることができない場所を走れたことですごく気持ちよかったです。一方で辛かったのは途中で足の痛みが出てきたせいでフォームが崩れ、スピードが落ちてしまったこと。ただ、そんな辛い時にも沿道から応援団のみなさんに声援をもらえたことはすごく力になりました」（後藤さん）

大会当日の安田さんと後藤さん

平田さんは、前回の挑戦がギリギリでの完走だったため、今年は鬼束さんと早い段階から練習を始めていたという。しかし、本番では当日のペース配分など含めて練習どおりには行かなかったことも多く、結果的には前回とあまり変わらない記録に。そのことで改めてマラソンの奥深さを感じたそうだ。その上で今回の挑戦について、こう語る。

「これは前回にも言えることですが、1人きりだと絶対に途中で諦めていたと思います。でも、伴走者の励ましやGMOドリームウェーブの皆さんの応援はすごく力になりました。今回は伴走者への感謝をより深く感じることができましたが、それもマラソンの醍醐味だと思います」（平田さん）

また前回の反省点を踏まえて鬼束さんは今回の挑戦をこう振り返った。

「レース中は、飲み物や軽食を2人分取ったり、ゴミも捨てたりなどのサポートは必要だが、昨年は自分の体力がきつくなってきた後半はそれが結構負担に感じてしまって。そこはすごく反省しなければいけない部分だと思っていました。今年はタイムこそ変わらなかったけど、最後まで自分も楽しく走れたことで体力的にも精神的にも自分の成長を感じることができました」（鬼束さん）

大会当日の平田さんと鬼束さん

鬼束さんによるとフルマラソンに挑戦する4人のために、GMOドリームウェ－ブではパートナー（従業員）たちが集まり、壮行会も催されたという。

「GMOドリームウェーブに限らず、宮崎の拠点であるGMO hinataオフィスにはグループ5社250人ほどが在籍していますが、今回も自主参加で50人ほどが応援に駆けつけてくれました。オフィスでは、壮行会に限らずイベントがあると、障がい者・健常者の分け隔てなく、集合してみんなで一緒にワイワイ盛り上がっています」（鬼束さん）

GMOドリームウェ－ブでは、「自立」と「成長」をキーワードに多様な“人財”を受け入れ、誰もが生き生きと活躍できる職場環境づくりに取り組んでいるという。

障がいを持つ持たないに関わらず、一般的に「自立」というと、全部自分でやれるようにならないといけないイメージがある。しかし、「GMOドリームウェーブでは、支え合いの輪の中に入る、助け合うという意味で『自立』を掲げている」と鬼束さん。「成長」に関しても、他人ではなく、過去の自分と比較して、その時の自分よりも少しでも成長していく“自分史上ナンバーワン”を目指すという意味だとのこと。鬼束さんは「“助け合って成長していこう”という方針をみんなが共通で掲げているからこそ、今、楽しく成長しながらみんなが働けている」と語る。

そのような職場環境づくりの一環として、GMOドリームウェーブでは、雇用のミスマッチを避けるために正規採用の前に実習プログラムを設けている。

「この取り組みは宮崎県下の障がい者雇用関係機関でも高く評価してもらっています。これは入社する人だけでなく、入社しない、できない人でも今後の自分のキャリアの中で、視点を広げてほしいという想いで取り組んでいます」（鬼束さん）

また、これまでの障がい者雇用には軽作業や清掃、農業支援など、主に体を動かす作業が多かったというが、GMOドリームウェ－ブでは、障がいを持つ従業員がデスクワークを通して継続的に業務のスキルアップを図れるため、社会人としてのスキルアップが可能になっている。

「障がいを持つパートナーであっても、ナンバーワンサービスを提供しているGMOインターネットグループの仕事をすることで、自分たちもGMOインターネットグループの一員であり、その事業の一部を担うことで社会に貢献できているという自信と誇りに繋げてほしいと思っています。これはGMOドリームウェ－ブ設立当初からの社長の橋口（代表取締役社長の橋口誠氏）や経営陣の想いでもあるので、今でもブレずに続けています」（鬼束さん）

その他にも業務ごとに支援員がプロジェクトマネージャーとして働く障がい者のサポートを行っている。実際にGMOドリームウェーブでのインターンシップ経験がある後藤さんは、その経験をこう振り返る。

「性格的に初対面の人とコミュニケーションを取るのが苦手ですが、このインターンシップでは、一緒に働く人とコミュニケーションを取る機会がすごく取り入れられていました。今後の自分の人生にとって、大きく役立つものになっていましたね」（後藤さん）

また後藤さんの話を受けて、鬼束さんはこう付け加えた。

「障がいを持つ方を対象にしたインターンシップの中には実務的な仕事を取り入れているものもありますが、GMOドリームウェ－ブの場合は、実務を経験してもらうことはもちろんのこと、ディスカッションやワークの部分でコミュニケーションが取れるプログラムになっています」（鬼束さん）

フルマラソン挑戦は会社にとって良い循環に

最後に今後のマラソンへの取り組みについて、4人に話を聞いてみた。後藤さんと平田さんは「今回の挑戦で自分の課題もわかったので、次回の挑戦を前向きに検討していきたい」と語る。GMOドリームウェーブとしても2人が再度挑戦するのであれば、「もちろんサポートしていく」と鬼束さん。

「今回の僕らのフルマラソン挑戦後から、応援だけでなく、走ることを始める宮崎や東京のパートナーが増えました。会社にとって良い循環になったというか、職場にもすごく良い雰囲気が生まれています」（鬼束さん）

またGMOインターネットグループ陸上部には大迫傑選手がプレイング・ダイレクターとして参画している。今後、同選手がなんらかの形で障がい者マラソンに関わる可能性があるのか、GMOインターネットグループ陸上部の部長でもある安田さんに聞いてみたところ、次のような答えが返ってきた。

「現在、大迫選手とGMOインターネットグループは陸上を通じてのパートナーという関係にあり、大迫選手にはプレイング・ダイレクターとしてニューイヤー駅伝に出場することとGMOインターネットグループ陸上部のマネジメントをお願いしています。ただ大迫選手には陸上をもっと広めたいという想いや選手に夢を与えたいという想いがある。まだどういった形で視覚障がい者マラソンにご協力いただけるかはわかりませんが、将来的に何かご一緒できることがあればいいなと思っています」（安田さん）

障がいを抱えながらも積極的に自分ができることの幅を広げていくことを支援しながら、その雇用の拡大にも取り組むGMOドリームウェ－ブ。障がい者ランナーと健常者の伴走者がともに協力しながら挑戦した「第31回視覚障害者マラソン宮崎大会」での取り組みも、そんな同社の土壌があるからこそ実現した。今後もこのような活動を通じて、さらに多様な人々が生き生きと活躍できる職場環境が広がっていくことに期待したい。